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効を奏さなかった事前弾圧:反プーチンデモ


6月12日にモスクワ中心部で行われた反プーチンデモには、事前予想を上回る5万人が参加して、大いに盛り上がったそうだ。アレクセイ・ナヴァーリヌィらデモ組織者が、治安機関に拘束されて不在だったにもかかわらずだ。そのうえ、デモは大した混乱もなく終わった。官憲側が自重したという見方もある。

官憲はしかし、デモに先立って有力な指導者の一斉弾圧に乗り出していた。まず、デモの3日前の6月9日に、少なくとも5人の活動家の自宅が治安警察に襲撃された。襲撃されたものの一人マリア・バロノーヴァは、事前にその情報を察知し、息子と共にデパートを抜け出して、郊外に潜伏し、息子の乳母を家に残した。そこへ、治安警察が踏み込んできたという。

乳母はマリアに言われたとおり部屋のドアを開けなかったが、そのうち治安部隊が大規模な攻撃を仕掛けると脅したこともあり、屈服してドアを開けた。すると数人の武装警察官が踏み込んできて、乳母を床に俯けに臥させたまま、部屋中の捜索を行った。息子の部屋を含めて、家じゅうをメチャクチャに荒らされたそうだ。

この連中はもちろん捜査令状を持参していた。容疑は、5月6日のデモで、警察官に向かって暴力を働いたというものだ。その文言を、バロノーヴァは後で読む機会を持ったが、そこにはまるでカフカの世界を思わせるような、笑止千万な文章が記されていたということだ。

運悪く逃げることができずに家のドアを開けた人々はみな逮捕された。官憲は捜索の結果、二件のアパートで合計100万ユーロを下らない金額の紙幣の束を押収したと発表した。その上で、これらの資金がどこから出たものか追跡するつもりだといった。どうやら、この連中は西側に買収されているといいたいようなのだ。

デモの当日には、ナヴァーリヌィら数人の指導者が、警察へ出頭するよう求められ、それぞれ出頭した。それ故、当日のデモには有力な指導者の多くが不在だったわけだが、それでもデモの規模は予想以上に膨らんだ。

デモの参加者の中には、事前の弾圧を知っていた人が多かったようだ。彼らはもともと参加することに熱心だったわけではないが、弾圧の情報を聞かされて俄然勇み立ち、参加したのだという者もいた。

事前の家宅捜査や当日の出頭命令などによって、指導者を離脱させ、デモの勢いを削ごうというのが官憲の方針だったと思われるが、どうやらその思惑は外れたようだ。

ところで、プーチンが大統領になって初めてしたことは、違法なデモへの罰則を強化したことだ。今回の件で、ナヴァーリヌィらの指導者がどんな罰則を受けることになるのか、いまのところはわからない。

今回のデモの指導者たちは、次は10月のプーチンの誕生日に、大規模な反プーチンデモを行いたいといっている。(写真はモスクワの反プーチンデモ:APから)





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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