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カチンスキー大統領機墜落の謎


昨年(2010年)4月、ポーランド大統領の一行90数人を乗せた特別機が、スモレンスク付近で墜落し全員が死亡する事故があった。この時大統領たちは、第二次世界大戦中に起きたカトゥィンの森事件を記念する行事に出席するため、ロシアの空港に向かっていた。これに対してロシア側も、国をあげて歓迎する姿勢を見せていたので、この墜落事故が起きたときには、両国間にするどい緊張が走った。

この事件は大きな外交問題には発展せず、両国とも節度ある態度を取ったかに見えたが、その実ポーランド国民の間には、ロシアへの不信感がたぎり上がっていたといわれる。

証拠もないし、また状況からして考えにくいことではあるが、ポーランド国民の大多数は、これがロシア側の陰謀だと信じて疑わなかった。両国間の不幸な歴史が、ロシア人に対するポーランド人の気持ちを頑ななものにしたと考えられる。

今回、ロシア側による事件の調査結果が公表された。それによれば、この事件は、多くのポーランド人が信じているような、ロシアの管制官のミスによるものではなかった。むしろロシアの管制官は、悪天候を理由に、特別機に代替の飛行場に着陸するよう指示したにかかわらず、特別機のパイロットがそれを無視して、予定されていた空港に、無謀な着陸を試みたことが原因だったとするものだ。

更に驚くことには、当時大統領機には軍の幹部も乗り込んでいたが、彼らはだいぶ酔っていたという証拠がある、その酔っ払いの一人がコックピットに入り込み、無謀な着陸を機長に強要した可能性があるというのだ。

こういわれては、ポーランド側は形無しだろう。名誉も何もない、ろくでもない酔っ払いのおかげで、国の最重要人物の命が簡単に消えてしまったというのだから。

もちろん、ポーランド人としては、こんな調査結果を無条件で受け入れるわけには行かない。だいたいこの調査自体がいかがわしい、そういうのである。

というのも国際的な慣習によれば、このような事故の際には、当該機の残骸が所属国に渡されるべきなのに、ロシア側は一方的に自国にとどめ置いて、自分たちだけで調査に当たった。そんな調査は信用できないというわけだ。

そういう事情なので、調査結果発表の現場には、ロシア側からは大使館員が出席したのみだった。国として歓迎できないということを、暗に仄めかしたのだ。

こうしたなりゆきに、ロシア側はロシア側で不快感を隠せないでいる。だいたいポーランド人は我々ロシア人を、いつも憎しみを込めて「忌々しいロシア(Проклятая Россия)」などと呼ぶ。彼らはいつだって友好的だったことはない。あることないことをかき混ぜて、ロシアを罵倒するばかりだ。

今回の問題についても、ポーランド人は亡霊に妄想を吹きこまれているだけだ、というわけである。(上の写真は墜落機の残骸:プラウダ)





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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