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メドヴェージェフの挑発:再度の北方領土視察


メドヴェージェフ・ロシア首相が、6月3日に北方領土の国後島を視察した。大統領時代の2010年に、ロシアの最高指導者として初めて北方領土に足を踏み入れ、日本人の反発を食らったものだが、今回は首相の立場としてとはいえ、ロシアによる北方領土の実効支配を強烈にアピールする意図があることは間違いない。本人も、北方諸島(ロシア名クリール諸島)はロシアの領土だと、重ねて強調している。

先日は大統領職に復帰したばかりのプーチンが、北方諸島をめぐる日露間の領土問題を解決したいとシグナルを送ってきたばかりだ。それを踏まえ、G20首脳会談の場で、野田総理とプーチン大統領との間で会談が設定され、北方領土交渉を実務的に再開することで合意した。それ故、今回のメドヴェージェフの行動は、日露両国に芽生えた建設的な雰囲気に釘をさすものだ、と受け取られている。

メドヴェージェフは何故、今のタイミングで、日本側の反発をわかっていながら、こんな行動をとったのか。

色々な推測が成り立つ。もっとも説得的なのは、四島のうちでも、国後と択捉はそう簡単には渡さぬぞという意思表示をしたということだろう。ロシア側が日本に対して今まで認めてきたのは、歯舞、色丹の返還だけだ。それ以上のことは認めた覚えがない。それ故、プーチンが発言した「引き分け」には、国後、択捉は簡単には渡さないという意味合いが含まれている、そういう趣旨のことを言いたいのだろう。

今回のメドヴェージェフの行動が、プーチンの了解のもとで行われていることは間違いない。プーチンとメドヴェージェフの主従関係からして、メドヴェージェフがプーチンの意向に逆らった行動をすることは考えられないからだ。とすれば、プーチン自身、国後、択捉を簡単に手放さないと考えていることは間違いないだろう。「引き分け」とは、四島の全面返還ではありえない、そう考えているフシがある。

こうした憶測に加えて、メドヴェージェフ独特の外交術も絡んでいるといえそうだ。というのも、メドヴェージェフには、日本の今の政府の外交能力を馬鹿にしているフシがあるからだ。

2010年の視察の際に菅総理が「許しがたい暴挙だ」と発言したことに対して、メドヴェージェフは日露会談の場で発言の不適切さを指摘し、場合によっては日露断交もあるうると発言した。これは首脳会談で軽々しく言うような言葉ではない。相手に戦争を仕掛けるような言い方だからだ。場合によっては、売り言葉に買い言葉、本当に日露戦争に発展しかねない要素を持っていたわけで、メドヴェージェフとしても、万を期しての発言だったに違いない。

ところが、である。菅総理はその言葉に反撃するどころか、あっさりと降参してしまった、その場面はテレビ放映されたから、多くの国民が見ている。菅総理が国民の信頼を決定的に失ったのは、原発事故対応のまずさと並んで、この時の腰抜けぶりによるところ大だといってよい。

その後、前原外務大臣がロシアを訪れた際には、ラヴロフ外相によって、それこそ餓鬼扱いされた。日本の外交はなっておらんと、一方的に面罵されたわけである。前原氏はその後も、政府与党の実力者としてロシアを訪問し、ロシア人が望んでいる経済協力の露払いをするという行動をとっている。

こうしたわけで、メドヴェージェフには、相当日本政府を軽んじているフシがある。軽んじているというよりか、頭から馬鹿にしているといってもよい。

今後日本政府は、メドヴェージェフにバカにされたからといって子供じみた反応をしたり、節度のない姿勢をとったりすることなく、毅然とした大人らしい態度で臨む必要がある。もしそれができればの、話ではあるが。(写真は日本を挑発するメドヴェージェフ:AFPから)





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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