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ロシアの日本への強硬姿勢をどう受け取るべきか


昨日、ロシア側の極東軍備近代化構想についてのプラウダ電子版の記事を紹介し、その目的は日本の北方領土要求への牽制だと説明した。ところが、ロシア情勢の専門家の中には、ロシアは対日だけではなく対中国も意識して極東軍事戦略を立てているとみる者もいる。ここではエコノミストの最新号に発表された防衛研究所米欧ロシア研究室長兵頭慎治氏の論を紹介しよう。(ロシアが日本に強硬姿勢をとる理由)

氏によれば、ロシアはいま軍全体の近代化に取り組んでいる。それは組織の改編、装備の近代化、軍事戦略の更新といった「三位一体」の形で進められているが、その主な目的は、冷戦時代のようなNATOに対抗した大規模紛争から、周辺諸国との地域紛争への対応に移行している、という。

地域紛争の中で、極東の領土を巡って日本との間にある対立が俄に顕在化してきた、しかもアメリカまでが日本の主張に理解ある態度をとっているなかで、ロシア側としても、この地域の防衛に真剣に取り組む必要性が高まってきた。

そこでロシアは、昨年の9月に「第二次大戦終結の日(ロシアの対日戦勝記念日)」を制定して、北方領土の保有が戦勝国として正当な行動であると宣伝するとともに、日米の軍事戦略に対抗できるだけの軍備を整備するという姿勢を強めた、これが基本的な構図であるとは、氏も認めている。

だが、氏はもう一つ踏み込んで、ロシア側の強硬姿勢の背景には「中国ファクター」もあるのではないかとみている。

中国は国力の充実を背景に軍備の増強に努め、それを用いて東シナ海から南シナ海にかけての軍事プレゼンスを強めている。その過程で日本との間でも摩擦を起こしているわけだが、中国はこれにとどまらず、オホーツク海を越えて北極圏に進出する意図も持っているようだ。これがロシアの警戒を高めているというのである。

実際中国は2008年10月に4隻からなる艦隊を、津軽海峡を通過して、日本海から太平洋に抜けさせる行動をとった。ロシア側はこれに、北極圏に対する中国側の強い関心を感じとって、衝撃を受けたとされる。

したがってロシアは、極東における軍事力を強化し、オホーツク海を自分の海として支配することで、中国を寄せ付けないぞという意思を強く示す必要性に駆られた、フランスから買った揚陸艦ミストラルを極東に配備することとしたのも、対日だけではなく、対中牽制でもあるとみることができる。。

中国が台頭すればするほど、ロシアは日米に接近せざるをえない要素ももっている、と氏は見るわけだ。

問題はこの先にある。日本、中国、ロシアの三つ巴の中で、日本の国益のためには、日本はどういうパフォーマンスをとるのがよいのか。

氏はどうやら、中国の脅威の方をより重く見て、ロシアと結ぶことで中国を牽制するのが賢明だと考えているようにも受けとれる。日本がロシアと接近して、ロシアとの関係を強化すれば、そこから自然と、北方領土問題解決の見通しも出てくるのではないか、したがって日本は、アメリカをも巻き込んだ形で、積極的にロシアに対して働き掛けていくべきである、と言うわけだ。

しかし、これは現実的な見方だろうか。中国が現実の脅威になりつつあることは確かだ。だが近代以降の歴史を見れば、日本は中国から侵略されたこともないし、今現在でも中国から明示的な敵愾心を突きつけられているわけでもない。

それに対してロシアは、現実に日本の領土の一部を侵略し、そのためにいまだに平和条約さえ締結できていない。そうした状態に対して、ロシアは自分から歩み寄ろうとする姿勢は一切示していない。

「平和条約がなくても良好な二国間関係は成立しうる」などと副大統領が公的に発言し、領土問題を永久に棚上げしようとの意図まで示している。これは日本を甘く見ていることを物語っているのだと、受け取るのが本筋だろう。

日本にとって、何が真の国益なのか、またその国益を実現するためにどのようなパフォーマンスを行うべきなのか、リアルに見つめなおす必要がある。(写真はフランスから購入する揚陸艦ミストラル)








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