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プラウダが北方領土占領を正当化:居座り強盗の屁理屈



プラウダのWEB英語版を読んでいたら、メドヴェージェフの国後島訪問に関して、ロシアによる北方領土の不法占領を正当化する文章が載っているのを見出した。Should Medvedev ask Japan's permission every time he travels East? By Vadim Trukhachev : Pravda.Ru

書かれた日付は2010年11月2日になっているから、訪問のあった11月1日の翌日だ。この訪問が日本側に大きな反響を呼び、北方領土返還についての日本側の世論が盛り上がるのを牽制しようとして、ロシアによる領有権をことさらに強調したものと見られる。今この時期に再掲したのは、近く予定されている前原外務大臣の訪ロに備えて、改めて日本側の主張を牽制する意図があるのだろう。

しかし、ロシアの国民世論に大きな影響を持つ新聞の論調としては、あまりにもお粗末だ。

彼らの言っていることは、北方領土は対日戦争の戦利品としてロシアが獲得したもので、ロシアの領土の正当な一部だというものだ。恐らく先のメドヴェージェフの声明を踏まえたものだろうが、それは、この問題にたいする従来の日露両国の外交努力を全面的に否定する変節だというほかはない。

メドヴェージェフは、国後訪問に先立って胡錦濤と会談し、第二次大戦の結果両国が獲得あるいは回復した領土は、歴史的にも正当なものだとする声明を共同で発表している。ロシア側にとっては、それは、千島全島の領有の正当性を訴えたものだった。プラウダはそれに依拠して、北方諸島の領有の正当性を主張しているわけだ。

だが、プラウダの主張は、二重の意味で根拠がないことは明らかだ。

第一に、彼らは、ロシアによる北方諸島領有の根拠をサンフランシスコ講和条約第二条C項に求める。その条文は次の通りだ。

(c) 日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

この条文を根拠に次のようにいうわけだ。

The San Francisco Peace Treaty between the Allied Powers and Japan from 1951 states that Japan must give up all claims to the Kuril islands. However, the Japanese still believe that the four southern islands (Kunashir, Iturup, Shikotan and Khabomai) belong to them. Russia vehemently rejects Japan's claims for the islands.

つまり日本自ら千島列島の放棄を認めているのだから、日本はその返還をロシアに対して求める資格はないという理屈だ。

しかし、この条約が日本に対して放棄を迫っている領土とは、日本が戦争の結果戦利品として獲得した外国領土であって、もともと日本固有の領土だったものは含まないとするのが、国際法上無理のない解釈となっている。サンフランシスコ条約の精神は、領土不拡大ということであり、その見地から日本が不当に獲得した領土を放棄させる一方、日本もまた固有の領土を戦利品として取られることはない、という精神が盛られているのである。

こうした国際法上の常識からすれば、北方諸島が法的にも歴史的にも日本固有の領土であったことは明らかで、2条C項が言及する千島列島とは自ずから性格が違う、日本の外務省も、条約が言及する千島列島に北方4島は含まれないとする解釈をとっている。

第二に、ロシアはそもそもサンフランシスコ条約を援用する資格を持たない。サンフランシスコ条約第25条が、次のように規定しているからだ。

第二十五条 この条約の適用上、連合国とは、日本国と戦争していた国又は以前に第二十三条に列記する国の領域の一部をなしていたものをいう。但し、各場合に当該国がこの条約に署名し且つこれを批准したことを条件とする。第二十一条の規定を留保して、この条約は、ここに定義された連合国の一国でないいずれの国に対しても、いかなる権利、権原又は利益も与えるものではない。また、日本国のいかなる権利、権原及び利益も、この条約のいかなる規定によつても前記のとおり定義された連合国の一国でない国のために減損され、又は害されるものとみなしてはならない。

周知の通りロシアはサンフランシスコ講和条約に調印していないのであるから、この条文の規定に従って、条約の運用になんら口を挟む権限を持たないのは明らかだ。

また条文の後半で「連合国の一員でない国」という表現で暗に言及されている国は、ロシア(ソ連)だとする解釈が確立されている。将来予想されるロシア(ソ連)の日本領土の不法占領をあらかじめ牽制した条文だというのが、国際法上の常識だ。

ロシア側はこういう背景を全く無視して、容喙する資格のない国際条約を持ち出し、他国の固有の領土を不法に占領し続けているわけだ。

ロシアが北方4島を含めた千島列島の完全領有にこだわるのは、地政学的な理由からだ。千島を日本に渡すということは、ロシアにとって太平洋への出口を塞がれることを意味する。プラウダもそのことを率直に認める。

When they belonged to Japan, Russia was locked out behind that Kuril chain. Each of those islands is strategically important for Russia because they block Russia's access to the Pacific Ocean.

だからといって、他国の固有の領土を侵略することは、国際法上認められるものではない。

プラウダもそんなことは承知のはずだ。だから時にはナンセンスな言葉を吐いたりする。たとえば次のような言い草だ。

Maybe Russia should express its own protests to Japanese officials visiting northern Hokkaido because the people living on that territory used to swear their allegiance to Russia?

随分人を馬鹿にした言い分である。こんな言い分が通るのは、無法者の世界しかない。ロシア人が自分たちを無法者でないというのなら、居座り強盗の屁理屈のような言い分を、振り回すべきではない。





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