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ソ連崩壊から20年


ソ連共産党の崩壊につながった歴史的な事件、ゴスバチョフに対するクーデター騒ぎからちょうど20年になる。20年前の1991年8月19日、ゴルバチョフの行き過ぎた民主化に恐怖心を抱いた共産党の幹部たちが、クリミアに旅行中のゴルバチョフを軟禁し、権力を掌握しようとしたのに対して、イェリツィンらの民主化勢力が立ちはだかり、クーデターは三日後に収束、この事件をきっかけに共産党は非合法化され、12月の末には、ソ連邦は解体に追い込まれた。

この歴史的事件をどう評価するか。モスクワ市民を対象にした Levada Centerの世論調査は、今のロシアの政治情勢を鋭く反映した結果を示した。この事件を単なる権力争いとみるものが39パーセントに達したのに対して、民主主義の勝利と評価するものはただの10パーセントしかなかったのだ。

20年前にロシアの人々がイェリツィンに託した民主化への希望は、今は消え去ってしまったのだろうか。

少なくとも1999年にイェリツィンからプーチンへの権力交代がなされた時には、希望の火は消えていたわけではなかった。たしかに、共産党がつぶれて市場経済が復活して以来国民生活は苦しくなり、共産党時代にたいするノスタルジーの気持ちが盛り上がってきてはいた。しかし当時の人々は腹が満ちることだけが生きる上での目標だとは考えなかった。やっと手にした自由もまた捨てがたいものだと考えていたはずだ。

ところがプーチンが登場して以来、ロシアの経済が活気づくのと比例して、自由の価値が貶められるような事態が起きた。プーチンは経済の繁栄をエサにして、ロシア人の心から自由への希求を除き去って行ったのだった。

今やロシアは、民主主義の価値という面では、野蛮な暗黒国家に逆戻りしたと受け取られている。プーチン自身そういう評価を正面から否定することはない。ロシア人には民主主義という訳の分からぬ価値観より、経済的な繁栄の方がずっとわかりやすくて大事なのだ、そう考えている。

プーチンのもとで、事実上の一党独裁が復活し、反対派は徹底的に弾圧されるようになった。デモや集会などの政治的な行為は、注意深く排除され、体制に批判的なジャーナリズムは巧妙に抑圧される。その一方で、偏狭なナショナリズムが横行し、極右主義者による極端な排外主義が勢いを増している。そうした動きの背景にはいつもプーチンの影がある。プーチンはロシア人の歪んだ愛国心を煽ることで、普遍的な民主主義の価値を貶めている。

そのプーチンが、来年予定されている大統領選挙に立候補する意向を見せ始めている。恐らくプーチンは出馬して、圧倒的な支持を受けて大統領になるだろう。そうなれば、ロシアの民主主義はさらに深刻な閉塞感に見舞われるだろう。

ロシアは、やっと民主国家として世界史の舞台に登場したのも束の間、再び世界の動きから逸脱した道を歩み始める公算が強くなるだろう。(写真はWPから)

(参考)Russia, once almost a democracy By Kathy Lally and and Will Englund: Washington Post
August 1991: Tragedy or victory of democracy? : English Pravda





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