ロシア情勢を読む
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岸田・ラブロフ会談の意味するもの


日本の岸田外相とロシアのラブロフ外相が、ほぼ一年半ぶりに日露外相会談を行った。日本としては中断していた北方領土問題の話し合いと、その解決を踏まえて平和条約締結交渉の再開をめざしたが、ロシア側は北方領土問題は解決済みで、交渉の余地はないと、にべもない返事を返してきた。これにはさすがに温厚な岸田外相も、むっとした表情を見せざるを得なかった。

この会談は日本側から申し入れて実現したものだが、日本がこのタイミングで外相会談を呼びかけたのは、懸案の安保法案が成立したことで一段落ついた安倍政権が、気になりながらも手つかずにいた対ロ交渉再開と、できればプーチン大統領の訪日を年内に実現したいという思惑があったようだ。だがその思惑は、ロシア側の手厳しい反応によって、跳ね返されたというのが目下の現状と言えよう。

一時は、プーチン訪日の可能性がかなり高まるなど、日露関係が良好と見えたのに、今回の外相会談は、1956年の日ソ首脳会談よりも以前の状態に戻ってしまった。日本としては、大いなる誤算と言えよう。

だが、国際政治を冷えた頭で見ていれば、このロシア側の反応は十分予想できたことだ。ロシアとしては、今般の安保法制の整備は、日米の軍事同盟を一層強めるものであり、その矛先がロシアに向かうのではないかと懸念する理由は十分にある。クリミア併合やウクライナ問題を巡って、ロシアはアメリカと大きな緊張関係にある。そこへもってきて、日本が安保法制を整備してアメリカとの軍事的一体化を更に進めるという事態は、ロシアにとって決して面白いことではない。

日本としては、主要な仮想敵は中国であって、当面ロシアを攻撃しようとは思わない、と言ってみても、日本の対米従属体質を熟知しているロシアにとって、そんな言い訳は問題にならないだろう。ロシアとしては、日本が対米従属の状態から卒業して、一人前の自主国家になれば、まともな交渉に応じもしようが、いつ何時アメリカに振り回されて、一緒になってロシアを攻撃するかもしれない国に、いつもいい顔を見せているわけにはいかない、というわけで、これは別にロシアびいきでなくとも、国際情勢をまじめに見ていれば子供でも理解できることだ。

しかし安倍晋三政権はそうは思わなかった。こちらから下手に出ればロシアと雖も、会談に応じるばかりか、領土問題についての交渉にも乗ってくれるだろう、と考えたわけだ。これはいつもながらのことだが、安倍政権の唯我独尊と言うか、小児病的な体質が現れたものだと考えられる。現実を願望と取り違え、自分の言い分を一方的に主張するというのが小児病の主なシンドロームだが、安倍晋三政権のやっていることは、まさにそうした類のことだ。





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