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もうひとつの心情倫理:プーチンのホットな野望


プーチンはドライでクールな政治家と思っていたが、どうもそうでもないらしい。ウクライナをめぐる彼の最近の行動ぶりをみていると、クールどころかホットそのものだ。それが、かれのロシア・ナショナリズムの反映であることは間違いないようだ。ナショナリズムそのものは、政治家にとっては操作の対象となるかぎり、クールな政治とも両立しうるものだが、どうもプーチンの場合には、自分自身がナショナリズムに呑まれてしまっている風情が伺われる。つまりホットになりきっているわけだ。そのようなプーチンの顔をみていると、頭から湯気が上っているようにも見えてくる。

プーチンのナショナリズムが、彼一流の大国意識の裏返しであることは、よく見て取れるところである。かつてはアメリカと唯一対抗できる超大国であったソ連、そのおはちをついだロシアが、いまでは二流国家扱いだ。そこが彼にはたまらなく悔しい。その悔しさが、彼を駆り立ててナショナリズムに走らせているのだろう。

しかし、プーチンのナショナリズムは、成功の果実よりも挫折の幻滅をもたらす可能性の方が高い。なぜなら、ナショナリズムを煽り立てて対外的に好戦的な姿勢を貫くためには、それ相応の国力が前提になる。ところがいまのロシアには、そんな国力はない。

いまのロシアが、石油とガスといった天然資源の輸出のうえに成り立っていることは、プーチンでさえ否定できない現実だ。その輸出先はEU諸国だ。したがってEU諸国へ天然資源を輸出できなくなることは、ロシアの経済基盤が崩壊することを意味する。プーチンは、EUとの関係では、輸出先である自分のほうが有利な立場にあると錯覚しているようだが、EUのほうでは、場合によっては多少のリスクをおかしてもロシアへの経済制裁も決め手として、石油の禁輸をする覚悟があるようだ。そうなった場合、ダメージはロシアにとってのほうが大きい。というより、ロシアは深刻な経済危機に陥るだろう。

クールな人間なら、そんなことは頭を働かせなくとも、わかろうというものだ。ところがプーチンには、そこの所が見えていないらしい。彼の頭がホットになりきってしまった結果だろうと思う。

過去の日本の例を持ち出すまでもなく、国力不相応に夜郎自大的な行動をとれば、破滅するのは自分自身だ。ホットな頭が抱く野望ほど自己破壊的なものはない。

こんなことがわからないのは、プーチンが政治家としての責任倫理をわきまえず、心情倫理のみに基づいて行動しているからだ。心情へのこだわりは、人間をドライではなくウェットにする。プーチンに限らず、21世紀の世界には、心情倫理が好きなウェットな政治家ばかりが跋扈している。これはどうみても、いいこととは思えない。





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