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プーチンのロシアに及び腰な欧米

クリミア併合に向けたプーチンの動きに対して、EUとオバマのアメリカが強力な対抗措置をちらつかせて牽制してきたが、その対抗措置というのが、じつに中途半端なものだというので、一騒ぎ持ち上がることを期待していた連中をがっかりさせている。というのも、オバマやEUが持ち出したのは、けち臭い経済制裁措置で、プーチンにとっては大したダメージにもならないからだ。プーチンのロシアが本気で恐れていたのは、軍事的な対抗措置であり、もしそうなった場合に、ロシアに勝目があるかどうか自信がなかったはずだ。プーチンの側近が最近、ロシアにはアメリカを死の灰の山にする能力があるといって恐喝していたのも、自信がないことの裏返しだったのだと思われる。

ところが、プーチンの予想に反して、オバマやEUは軍事的な対抗措置を取らなかった。いまのところ、かれらがちらつかせているのは、VISAに関する交渉の凍結だとか、特定の人物が欧米に置いている資産を差し押さえするとかいうものだが、そんなものはプーチンにとってはたいした痛手にはならない。こんなことで済むのなら、クリミアの併合について、もっとあたらさまにやってもいいだろう、そう思っているに違いない。というわけで、いままで遠慮がちなポーズを示していたクリミア併合問題に、一気に踏み込もうとしている。

オバマやEUが、プーチンのロシアに及び腰なのには、色々な理由が考えられる。まず、オバマにとっては、クリミアはアメリカの若者の命をかけて守るべき価値には値しない。ウクライナにしたってそうだ。ウクライナに深刻な利害を持っているのはアメリカではなくEUだ。だから本当にウクライナをロシアから守りたいのなら、EUが率先して動くべきだ。そうオバマは思っているに違いない。一方EUのほうでも、ロシアと全面的な対立関係に突き進むのは憚られる事情がある。全面対立に進むには、ロシアとの間の経済関係の結びつきが、あまりにも大きくなってしまったのである。

こんなわけで、オバマにとっても、EUにとっても、正義より金勘定のほうが物を言う事態におかれていると言ってよい。

もしそんなことが、はばかりなくまかり通るようになったら、プーチンはもっと大胆になるだろう。クリミアの併合の次は、東ウクライナへの軍事侵攻であり、最終的にはウクライナを力で屈服させようとするかもしれない。

ともあれ、先週に大幅に下げた欧米の株式相場は、今週になって取り戻した。ウクライナ危機が深刻化しないという安堵感がそうさせたのは間違いない。だが、ウクライナ危機が深刻化しないということは、ウクライナ国民にとっては、逆説的な言い方だが、決して喜ぶべきことではないだろう。

日本にとってもなにがしかのインパクトはある。プーチンが今度の問題で変な自信を得て、国際関係は正義ではなく力が支配するものだという信念を強めれば、日本からの北方領土返還の要求にも、居丈高な対応をするようになる可能性が強くなるだろう。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2014
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