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ロシアには改革への必要性は乏しい


ロシアには改革への必要性は乏しい。政治的にも社会的にも経済的にも、ロシアは安定と秩序を保っている。これ以上何を改革するというのか。

これはロシアのプーチン大統領が先日(10月25日)モスクワ郊外の大統領別荘に外国人ジャーナリストを集めて行った懇談会で強調した言葉だそうだ。その折の大統領の発言概要を、英誌Economist の記事が伝えている。Vladimir the victor The Russian president is firmly in charge, and he is not inclined to pursue any big political or economic reforms

懇談の席上外国人記者がまず取り上げたのは人権問題だった。最近プッシー・ライオットへの有罪判決が出たり、反体制活動家のラズヴォジャーイェフ氏が官憲によって誘拐されたりしているが、そのことについてどう考えるか聞かれると、プーチンはむっとした表情で、これらはロシアの法律に基づいて適正になされていると答えたうえで、アメリカでは反イスラム映画を作成したものが罰せられたではないかといって、西側のダブルスタンダードを手厳しく批判した。

政治経済を通じての国家の役割増大についても、プーチンは疑問を抱いていない。プーチンにとっては、国家が経済の牽引車となるのは望ましいことなのだ。それ故先般の国営企業ロスネフチによるTNK-BPの吸収合併についても、いいことだったと考えている。

しかし、ロシアの経済が石油と天然ガスに頼りすぎており、その他の産業が育っていないことについて指摘されると、ロシアの経済成長は天然資源以外の分野でも着実に進んでおり、心配はしていないというような答え方をしたそうだ。

しかし、エコノミスト誌の分析によれば、ロシアの民間部門の経済成長は殆ど進んでいないばかりか、資本の海外流出といった事態も起きており、一国の指導者なら非常に心配すべき状態にある。そして海外資本の流入がないばかりか、国内資本の流出が起きていることの背景には、ロシアの投資環境が整っていない事情があるとみている。

汚職の横行、財産権が確立されていないこと、官僚機構の恣意的なあり方、そして法による支配の不徹底、こうした事柄が自由な経済活動を妨げているというわけだ。

資本の流出ばかりではない。人材の流出も問題化している。最近実施された世論調査によれば、人口の68パーセントを占める中間層以上の世帯のうち37パーセントが、子供にロシア以外の国で成功して欲しいと考えているという結果が出た。祖国に期待しない人々がこれだけいるということをプーチンはどう考えているのだろうか。

プーチンは、資本の流出も人材の流出もグローバリゼーションの流れを反映したものだと他人事のようにいったそうだが、それで一国の最高指導者が務まるのだろうか。(写真はAFPから)





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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