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ドク・ウマーロフ Доку Умаров の挑発:ロシアの少数民族問題


モスクワ・ドモジェーダヴァ Домодедого 空港の爆破事件については、予想通りチェチェンの独立派グループのリーダー、ドク・ウマーロフДоку Умаров が犯行声明を出したことで、ロシア当局の捜査が新たな段階に入ったといわれる。だがそのわりには、捜査当局の動きは鈍い。メドジェージェフが警察組織の名称を変えてまで、能力向上を期待しているにもかかわらずだ。

そんな捜査当局の動きの鈍さをあざ笑うかのように、ウマーロフはイスラム系のウェブサイトKavkazcenter.comに登場して、ロシア政府への宣戦布告演説を行った。

このヴィデオがアップロードされたのは2月5日だが、作成されたのはそれよりずっと前で、もしかしたらドモジェーダヴァ事件より前だった可能性が強い。というのも、ウマーロフの左側に移っている青年が、自爆テロの実行犯とされるマゴメド・イェヴロエフである可能性が極めて高いからだ。

もしそうだとしたら、このヴィデオは、自爆テロを実行するに先立って、世界中のイスラム教徒に、これから聖戦ジハードをする旨の宣言をしたのだと、受け取ることもできる。

ウマーロフのこの不敵な行為は、昨年末にモスクワで起きた北カフカース出身者に対するテロ攻撃を踏まえ、ロシア内のイスラム教徒の間で高まっている怒りに訴えたものだといえよう。

ウマーロフは最近、チェチェン武装グループの中で孤立し、影響力がなくたったと推測されていた。自爆テロの少し前に、国営放送が、ウマーロフは死亡したようだと報道したことがあったが、それは彼の影響力低下をある程度物語る出来事だったのかもしれない。今回のヴィデオ放映には、失った影響力を回復しようとの意図も含まれているのだろう。

さてウマーロフから挑発された形のロシア政府は、国内では公安警察の強化を図りながら、対外向けにはテロとの戦いを訴えている。だがいまひとつ海外の同情が盛り上がらない。ロシアのメディアもこのことをたいそう不服に思い、西側はテロリストと反体制派の区別をしないと非難している。

一方これは、あからさまな人権抑圧や少数民族差別など、ロシア政府が日ごろ行っていることの帰結だとする、さめた見方もある。(上の写真はヴィデオに登場したウマーロフ:ロイター提供)





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