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ロシアにおける言論の自由の状態:戦慄すべきカーシン事件

マンションの中庭を通りがかった一人の男に複数の男が襲いかかり、倒れて動けなくなったその男を、棍棒のようなもので激しく打ち続ける、防犯ビデオがとらえていたこの恐ろしい映像が、どうしたわけかロシアの国営テレビで放映されるや、YouTubeを通じて世界中に広まった。

襲われた人物はロシアの有力紙コメルサントの記者オレーグ・カーシン Олег Кашинだ。襲ったのが何者かは判然としないが、彼らはカーシンの手指を粉々に砕き、顎の骨を粉砕し、両足をグチャグチャに潰した。もはや筆をとれず、口をきけず、歩き回ることができないようにだ。

カーシンは何故襲われたのか。彼はかつてのアンナ・ポリトコフスカヤのように、政府に公然とたてついたわけではない、だがその論調はいかなる勢力に対しても毅然としており、真実のためには対決も辞さない姿勢に満ちていた。

最近は、モスクワ郊外のヒムキХимки に高速道路を建設する計画をめぐって、ヒムキ市長らの陰謀を取り上げていた。それが当事者にとってはあまりにもうるさいので、深く憎まれていたことは間違いない。

同じ問題を取り上げてヒムキ市長らを弾劾していたミハイル・ベケートフ Михаил Бекетов も、2年前に何者かに襲われ、手足をグチャグチャに潰された。おかげでベケートフは両手両足を切断せざるをえなくされた。

この二人に限らず、ロシアでは真実は命と引き換えでなくては得られないといわれるほど、ジャーナリストにとって危険の多い国だ。この十年間だけでも、22人のジャーナリストが暗殺され、膨大の数の人たちが傷つけられた。アンナ・ポリトコフスカヤのケースは、その象徴的なものだ。

この事件について報告をうけたメドヴェージェフはすぐさまツイーター上にメモをよせ、犯人は捕らえられて罰せられなければならないといったそうだが、額面どおりに受け止めるものはいない。

なにしろこれまでにおきた類似の事件で解決を見たものはほとんどないのだ。捜査が追いつかないからか、意図的にサボられているからなのか、それはわからない。少なくとも普通の法治国家では考えられないことがまかり通っているのである。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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