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ロシアがアイスランドを救済するワケ

世界金融危機でアイスランド経済が破綻し、ついに国を挙げて身売りする話まで飛び出したが、旧来の同盟国はどこも自分のことで精一杯なのか、困っている隣人を助けようとするものはなかなか現れなかった。そんなところに、思いがけぬ方向から救いの手が差し伸べられた。ロシアである。

ロシアはアイスランドに対して54億ドルもの援助をすると申し出た。何がロシアをそこまで踏み切らせたか。金融危機のあおりで台所事情が苦しいのは、ロシアも同じなのだ。ただの善意から外国を救う余力はないはずだ。

ロシア政府はアイスランド駐在大使を通じて、援助と見返りにアイスランドの豊かな漁業資源を将来にわたって安定的に確保するのが目的だと説明した。つまりニシンを担保にして援助を行うというわけだ。だがそんな説明をまじめに信用するものは誰もいない。

そんなロシアの隠れた意図について、「タイム」のモスクワ駐在記者ユーリー・ザラホーヴィチが推測をしている。それによれば、ロシアの最大の目的は北極圏の囲い込みに足がかりを得ることだというのだ。

北極圏は石油や天然ガスの最後の大埋蔵地帯だといわれている。地球の未調査残存埋蔵量のうち四分の一を占めるだろうとも推測されている。この豊かな資源がロシアにとっては魅力であり、それを囲い込むにはアイスランドは地勢的に大きな意味を持っているのだ。

ロシアは以前から北極圏に対する権利主張を声高に叫んできた経緯がある。北極圏にはロシアのほかに、アメリカ、カナダ、ノルウェー、デンマークが重要な関心を示し、それぞれ200海里水域を設定して互いに牽制しあっている。この資源獲得を有利に勝ち抜くためには、アイスランドは非常に役に立つのである。

現在の国際ルールによれば、北極自体まで権益を主張できる国はひとつもない。どの国の200海里水域も、北極点までは達しないからだ。そんなところからロシアは、北極を直接領有しようとする動きまで示したことがある。2007年ロシアの潜水艦が北極点の直下まで進み、そこにチタニウムで作ったロシア国旗を埋め込んだのだが、このときにはさすがに、各国の猛反発を食らわざるを得なかった。

ロシアがそこまで北極の資源にこだわるのには、国内の石油や天然ガスがそろそろ底をつきそうだという事情がある。なにしろロシア経済は、石油と天然ガスで成り立っているといってもよいほどなので、それらがなくなることは深刻な事態なのだ。

こんなわけでロシアは、アイスランドの地政学的な有利さを北極圏の囲い込みに利用したいのだろうとする推測が成り立つのだが、ここまではあくまでも経済的な動機を論じているに過ぎない。

ザラホーヴィチは全く触れていないが、ロシアには政治的・軍事的な思惑もあるに違いないのだ。

アイスランドといえば古くからのNATO加盟国であり、かつてはロシアを標的にしたミサイル基地があった。ロシアにとっては脅威だったわけだ。そこを反対にロシアの軍事拠点にすることができたら、ロシアの国益にとっては計り知れないプラスとなる。裏返せば、NATO諸国にとって新たな脅威の震源地になることを意味する。

今回のロシアの措置は、いまのところ深刻な議論には発展していないようだが、いずれ国際政治上の争点に転ずる恐れがある。

(参考)Why Russia is bailing out Iceland By Yuri Zarakhovich





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