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日経社説が提案するのは対ロ土下座外交か


2月15日付の日経新聞社説「対ロ外交の長期戦略が今こそ必要だ」を読んで、非常に驚いた。驚いたというよりあきれ返った。ロシアという国に対する姿勢が、あまりにも卑屈で、日本の真の国益という点から見逃せない内容を含んでいると感じからだ。

社説は前半で、北方領土をめぐるロシア側の最近の動きを一応は批判して見せた上で、今後の対ロ外交のありかたについて提案している。

「感情的な応酬を続けるだけでは事態を打開できない。まず日ロが冷静に話し合い、日ソ共同宣言や東京宣言の有効性を再確認するところから始めるしかない。」前置きとしてまずこう述べているが、ここは誰もが依存のないところだ。

だが、「それと同時に、資源や原子力、省エネなど双方の利益にかなう経済協力を進めることが重要だ。互いに必要な協力相手であるとの認識を築ければ、北方領土返還交渉を前進させるのにも有用であろう。」と続ける。ここから先が問題なのだ。

「資源や原子力、省エネなど双方の利益にかなう経済協力を進めることが重要だ。互いに必要な協力相手であるとの認識を築ければ、北方領土返還交渉を前進させるのにも有用であろう。」

これはまさに今回の日ロ会談の周辺で、ロシア側が主張していたことだ。日本は馬鹿げた領土要求を持ち出す前に、もっとやることがいくらでもあるだろう、という開き直った理屈だ。

社説はさらに進んで、日米関係を強化することで、ロシアから付け入られないようにすることが大事だと述べると同時に、「日ロで戦略上、協力できる分野を探す必要もあろう。」という。

「日ロで戦略上、協力できる分野」とはいったい何のことか。

「ロシアは中国軍の台頭を懸念しているといわれる。対中政策をめぐって、日ロ両国の連携を探ることも検討に値する。」

つまりこういうことらしい。ロシアは東アジアでの中国の台頭に神経を尖らせている。一方日本も尖閣諸島問題などで、中国に脅威を感じたことがあった。中国はいってみれば日ロ共同の潜在的な敵だ。その共通の敵に手を携えて立ち向かうことで、日ロ両国は安全保障上でも、パートナーになりうる。それがひいては日ロの緊密な関係をもたらしてくれる。

おいおい、ちょっと待ってくれよ、というのがこの部分を読んでの筆者の率直な反応だ。日本と中国との間ではたしかに尖閣諸島のような問題があることは事実だが、それがもとで深刻な国家対立に陥っているわけではない。ところがロシアは現に日本の領土を不法占領し、日本に対して明確な敵対姿勢をとっている。中国が潜在的な敵というなら、ロシアは当面する現勢的な敵だ。

社説がいうところは、現勢的な敵に手を貸して、潜在的なものを現実の敵に仕立て上げようとする議論だ。単に方向が間違っているという以上に、ロシアに対してあまりに卑屈すぎる、これではまさに土下座外交のすすめというところだ。

だいたい日本は、北条時代の元寇の場合を除けば、中国から侵略されたことはなく、重大な国益侵犯をこうむったこともないといってよい。ところがロシアは日露戦争を戦ったことをはじめ、常に日本と敵対してきた国だ、第二次世界大戦の終了前後には、日本の混乱に付け込んで領土を侵略したほか、60万人もの日本人を捕虜にとって強制労働をさせた。その結果5万人もの日本人が無念に死んでいった。ロシアはいまだにそのことについて正式な謝罪もしていない。

そういう国と中国とをいっしょくたに並べて、中国よりもロシアを大事にするという発想がどこから出てくるのか、筆者にはまったく理解できない。

日経の社説がこだわる経済関係についても、ロシアに比べれば中国のほうが何倍も、日本にとってメリットがある。ロシアはたかだか石油資源を食いつぶして生きているだけの国だ。中国とは比較にならない。

それなのに、上述のような理屈に合わない議論を展開するというのは、執筆者の意識が譫妄状態に陥っているのか、眼前の金儲けのために大事な立場を忘れているのか、驚きを通り越してあきれ返るほかはない。

「北方領土交渉は粘り強く進めるべきだが、そのことと長期戦略に基づき経済と安保で関係を進展させることは決して矛盾しない。」

これが社説の結びの言葉だ。筆者が指摘したようなことが、この文章からも読み取れよう。土下座をしてでも金儲けしたほうが勝ち、どうもそういう魂胆が見えてくるようだ。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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