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ロシアが抱える国境問題


ラヴロフの日本訪問に寄せて、プラウダが感情的な反応を見せている。ラヴロフがNHKとのインタビューの場で、南クリルの帰属問題について日本側に幻想を抱かせるような発言をしたのは、ロシアの国益に反することだ、ラヴロフは南クリルがロシアのものであることを断固として表明すべきだった、というものだ。

何故なら、領土問題は日露間だけの問題ではない。フィンランドとの間ではカレリア共和国のヴィボルグ、ムルマンスク地方のペチェンガを巡って、エストニアとの間ではプスコーフ地方のペチョラを巡って対立がある。またドイツも公然とではないが、カリーニングラードの回復に意欲を持っている。もし南クリルで日本に妥協するようなことがあれば、これらの問題にも火が及ぶのは避けられない、という理屈だ。

ロシアが最も脅威に思っているのは、カリーニングラードに寄せるドイツの野心だ。戦後のドイツは、この問題を公然と取り上げることはなかったが、数年前に、ブンデスタークで東プロイセンが初めて議題になった。カリーニングラード一帯をドイツではこういうのだ。また、半年前にはデア・シュピーゲル紙が奇妙な記事を掲載した。1990年に当時のソ連の高官だったバテーニンが、駐ソドイツ大使館あてに、ケーニッヒスベルグの返還について言及したというのだ。ケーニッヒスベルグとはいうまでもなく、カリーニングラードのドイツ領有時代の名称だ。

結局この問題は、バテーニンが私腹を肥やすために企んだ陰謀だという具合に、ゴシップ扱いで終わったが、それにしてもドイツの連中が失地回復を公然と言い出したことは、ロシアにとってはまことに不都合なことだった。カリーニングラードのドイツへの帰属が論じられるようになれば、ポーランドに組み込まれた旧ドイツ領についても論じられるようになるだろうし、そうなればスターリンがポーランドからかすめ取った領土も問題にされるに違いない。ロシアにとっては悪夢でしかない。

プラウダが最も脅威に感じているのは、領土問題の政治的な側面と並行して、これらの地域に対する旧主権国による経済的な侵攻が進んでいる点だ。ペチョラにはエストニア資本が流れ込み、住民の大半はエストニアのヴィザを取得して、自由にエストニアに出入りしている。彼らにとっては、ロシアよりもエストニアの方が、魅力があるのだ。

カリーニングラードへのドイツ資本の進出にも激しいものがある。ここの住民はロシアよりもドイツの方を向いているといってもよいくらいだ。なにしろ、カリーニングラードはロシア本体とは切り離された飛び地だ。そんなこともあって、経済的な恩恵が及ぶこともなく、住民はロシアから取り残されていると感じている。

南クリルについても同様だ。ロシアの富は極東にまで及ばない。住民はそんななかで、モスクワが自分たちの面倒を見てくれないのなら、日本の恩恵を受けたほうがましだと思いかねない。それはロシアにとって危険なことだ。

ラヴロフは、仮に南クリルの日本への移行が問題になるとしても、それには国民投票の手続きを経る必要があるといった。だがこんな状況でいま国民投票を行ったら、南クリルの住民は日本への帰属を選ぶかもしれない。

彼らにそんな選択をさせないためにも、ロシア政府はもっときめの細かい対応をすべきなのだ。プラウダの論評はこう結んでいる。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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