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スターリンは偉大だった?ロシア人の奇妙な自己意識


スターリンは悪人だった、ということはプーチンでさえも認めざるをえないほどに、いまや世界中の人々の心の中に定着した信念だ、それはロシア人以外の人々にとっては、スターリニズムの狂気として、ヒットラーの狂気と同列のものであり、当のロシア人にとっても、同国人を差別なく殺したという点で、ポルポトと五十歩百歩だと受け取られている。

ところが最近、ロシア人のなかには、スターリンを肯定的に評価しなおそうとする動きが強まっているようだ。最近号のプラウダに載ったイーゴリ・ブッケルの文章などは、そうした空気をよく代弁しているといえよう。

彼らにとっては、スターリンはまず第一に、ナチスドイツとの間で大祖国戦争を戦い抜き、ロシアに勝利をもたらした英雄なのだ。対ドイツ戦争のターニング・ポイントとなったスターリングラードの攻防は、スターリンという名の輝かしさと深く結びついている。

その英雄がなぜ、ヒットラーと同列に扱われねばならないのか?スターリンを再評価する歴史家たちは、そこに西側の陰謀を見たりする。

たとえばドイツの歴史家ヨアヒム・ホフマンなどは、ナチスドイツの蛮行といわれるものの再検証を進める一方で、スターリニズムがナチズム以上に野蛮で強暴だったと論証してきた。

ホフマンによれば、スターリンは血に飢えた怪物だった。戦時中ドイツの捕虜になった500万人のソ連兵が、戦後解放されて祖国に戻るや、一人残らず殺されてしまったものだが、それはスターリンの根拠のない考え、「あいつらはドイツにいる間にヒットラーに洗脳された」という妄想から、命令されたものだ。

そういう主張に対して、ブッケルは歴史上の人物の証言を集めてきて、スターリンがそんな命令をした事実はないと強く反論している。彼にとっては、500万人の戦争捕虜が祖国によって殺されたという事実よりも、スターリンは直接命令したわけではないという口実のほうが大切なわけだ。

まともな人間ならなぜ、歴史上の出来事や人物について、こんなにゆがんだ態度をとらねばならないのか。

それは自分の祖国の歴史がスターリンという化物によって汚されてしまったことへの悔恨の情と、それでも祖国は祖国という、愛国的な感情とが、うまくマッチングできないことからくるディレンマだと思われる。

そのディレンマが、自分の国とそこに生きる自分そのものをめぐって、奇妙で分裂した意識を醸成しているのだろう。(写真はスターリン:プラウダ)





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